結論を先に書きます

2020年のコロナショックは、速く落ちて、速く戻った暴落でした。

米国の代表的な株価指数 S&P500 は、2020年2月19日の最高値から、わずか 33日(23営業日)で33.9%下がりました。高値から20%下がった線に届いたのは3月12日で、16営業日目です。それでいて、底から約5か月後には元の高値を上回っています(数字はどれも米セントルイス連銀 FRED の終値)。

この記事では、その2〜3月に何が起きていたのかを、終値と中央銀行の公表資料で時系列に並べ直します。失敗のパターン(破滅型・忖度型・狼狽型)そのものは コロナショックの3つの失敗を扱った記事 に書いたので、ここでは「相場と政策が、どんな順番で動いたか」に絞ります。

先に断っておくと、これは結果を知った後からの整理です。その時点では、どこが底かは分かりません。そこも含めて、淡々と並べます。


なぜ「速さ」が特別だったのか

過去の暴落の多くは、数ヶ月かけてジリジリ下がりました。2008年のリーマンショックでは、日経平均は高値(2007年7月)から安値(2009年3月)まで約1年8か月かかっています(3つのショックの下落率)。

コロナショックは違いました。1ヶ月強で一気に落ちた。

速さが何を生むかというと、「考える時間がない」状態です。じっくり下がる相場なら、人は途中で立ち止まって方針を決められます。一気に落ちる相場では、画面の数字に反応して反射で動きやすくなる、と私は考えています。

数字でいうと、S&P500 は2020年2月19日に終値 3,386.15 の最高値をつけ、3月23日に 2,237.40 まで下げました。下落率は 33.9%。期間は33日(23営業日)で、高値から20%下がるまでは16営業日でした。


紙に描かれた V 字の線と、机の上の鉛筆とカップのミニマルなイラスト
33日で34%下げ、そこから約5か月で戻った(絵)。

時系列①:2020年2月 ── まだ「対岸の火事」だった頃

2月の前半まで、株式市場はむしろ堅調でした。日経平均は2020年1月20日に 24,083.51円の年初来高値をつけ、S&P500 も2月19日に最高値を更新しています。新型コロナウイルスの拡大は報じられていましたが、指数はまだ高値の近くにありました。

潮目が変わったのは2月下旬です。感染が中国の外へ広がり始め、欧州やアメリカでの拡大が現実味を帯びると、相場は急に売りに傾きました。2月最終週、S&P500 は1週間で11.5%下げています(2月21日 3,337.75 → 2月28日 2,954.22)。

「対岸の火事」が「自分の火事」に変わる ── その切り替わりが、わずか数日で起きた。これが3月の混乱の前触れでした。

3月に入ると、ニュースの密度がさらに増します。世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルスの感染拡大を 「パンデミック(世界的大流行)」と表明したのが 2020年3月11日。その2日後の 3月13日、アメリカは 国家非常事態を宣言しました。実体経済の止まり方が、いよいよ現実の数字として意識され始めた局面です。相場は、その一つひとつの見出しに鋭く反応していきました。


時系列②:2020年3月 ── 4回のサーキットブレーカー

3月は、取引が何度も止まる月になりました。

アメリカの市場には、急落時に取引を一時停止する サーキットブレーカーという仕組みがあります。S&P500 が前日終値から7%下がると、まず15分間、取引が止まります(レベル1)。この最初の発動が、2020年3月だけで 4回ありました。

発動日(2020年)きっかけ
3月9日原油価格の急落も重なり、寄り付き直後に7%下落
3月12日感染拡大と渡航制限を受け、再び7%下落
3月16日米連邦準備制度の緊急措置の翌営業日、寄り付きで7%下落
3月18日経済停止への警戒が強まり、7%下落

今の 7%・13%・20% の仕組みになってから、市場全体の取引が止まったのは、2020年3月9日が初めてでした。それが2週間に4回起きています。

日本でも、日経平均は急落しました。1月20日の 24,083.51円から、3月19日には 16,552.83円まで下げています。下落率は31.3%で、終値でこれより安かったのは2016年11月9日(16,251.54円)が最後でした(約3年4か月ぶりの安値)。


時系列③:政策の総動員 ── 日米の中央銀行が動いた

暴落と同時に、日米の中央銀行が、定例の会合を待たずに動きました。

アメリカ(連邦準備制度・Fed)

  • 3月3日:定例会合を待たず、緊急で政策金利を0.5%引き下げ。
  • 3月15日(日曜):再び緊急利下げで、政策金利の誘導目標を 0〜0.25%へ。事実上のゼロ金利に戻し、同時に7,000億ドル規模の資産買い入れ(量的緩和)を発表。
  • 3月23日:資産買い入れの規模を 「上限なし」に拡大すると表明。市場機能を支えるために必要なだけ買う、という宣言でした。

日本(日本銀行・BOJ)

  • 3月16日:本来18〜19日に予定していた金融政策決定会合を 前倒しで開催(前倒しは異例)。上場投資信託(ETF)の買い入れペースの上限を、年約6兆円から 年約12兆円へ倍増。J-REIT や社債・コマーシャルペーパーの買い入れ枠も増やしました。

数字の出どころは、いずれも中央銀行自身の公表資料です(記事末の「参考」を参照)。政策の中身を評価するのが目的ではなく、「これだけのことが、ほんの2〜3週間に集中して起きた」という事実を時系列で押さえておきたいのです。


数字で並べる ── 暴落の深さと速さ

ここまでの下げを、リーマンの時と並べて見ます。FRED の日経平均とナスダック100の終値で数えています(FRED の S&P500 は2016年より前が無いので、リーマンの時は並べられません)。

暴落指数高値から安値まで高値の日 → 安値の日
リーマンショック日経平均−61.4%2007年7月9日 → 2009年3月10日(約1年8か月)
リーマンショックナスダック100−53.7%2007年10月31日 → 2008年11月20日(約1年1か月)
コロナショック日経平均−31.3%2020年1月20日 → 3月19日(約2か月)
コロナショックナスダック100−28.0%2020年2月19日 → 3月20日(1か月)

リーマンのほうが、下げ幅は深い。けれどコロナは、下げ方が圧倒的に速かった。「浅いけれど速い」暴落だった、と言えます。

3つのショック(2008/2020/2022)を横断で眺めたい方は、3つのショックを並べた記事 もどうぞ。


時系列④:底は3月23日、そして最速の回復

底は、Fed が「上限なしの買い入れ」を表明した 2020年3月23日でした。S&P500 はこの日の終値 2,237.40 を底に、反転していきます。

そこからの戻りも、速いものでした。

  • 底から1週間ほどで、相場は急反発を始めます。
  • 5月〜7月にかけて、じわじわと水準を戻していきます。
  • そして 2020年8月18日、S&P500 は終値 3,389.78 をつけ、2月の最高値を上回って完全に回復しました。

ピーク(2月19日)から数えて、およそ 半年。底(3月23日)から数えれば、約 5か月です。

ただし、ここには注意書きが要ります。株価指数が最高値に戻っても、すべての銘柄が戻ったわけではありません。指数は、組み入れた銘柄をまとめた平均のような数字なので、指数が高値を上回った日にも、戻りきっていない銘柄は含まれえます。「指数が戻った=みんなが戻った」ではない、というのは時点を問わず言える話です。


底は、その時点では分からない

ここが、この記事でいちばん書いておきたいところです。

いま振り返れば「3月23日が底で、8月には最高値」と一行で書けます。でも その日の時点では、3月23日が底かどうかは分かりません。24日以降にさらに下げることも、ありえました。

だから「結局戻ったんだから、底で買えばよかった」というのは、後出しの結果論です。結果を知ったうえで、さも当時わかっていたかのように語るのは、このサイトではしません。

積立を止めた場合と続けた場合は、数えられます。2019年1月から毎月の終わりに同じ額を積み立てて2020年12月末に評価すると、S&P500 で続けた場合は入れたお金の1.230倍、2020年3〜5月だけ止めた場合は1.217倍でした(コロナショックの3つの失敗の記事で計算)。差は小さく、その大半は一番安かった3月末の分です。評価した日が値段の戻った後だったので、続けた方が少し上になりました。下げがもっと長く続いていたら、続けた方が含み損も大きくなっていました。

リーマン後の積立が何か月で入れたお金を上回ったかは、積立は何か月で戻ったかの記事で数えています。


一般論として ── 暴落の前に決めておきたい3つ

ここから先は、データではなく私の整理です。銘柄やタイミングの指示ではなく、暴落が来る前の静かな時に決めておく線です。

  1. 生活に必要なお金は、投資に回さない。下げの速い相場では「絶好の押し目」に見えても、底はさらに下にあるかもしれません。
  2. 判断を、丸ごと他人に預けない。聞くのは良いことですが、3か月後に相場がどうなるかは、その時点では誰にも分かりません。最後に決めるのは自分です。
  3. 積立を止めるかどうかは、暴落の最中に決めない。止める理由(生活のお金が足りなくなった、など)を、静かな時に決めておく。

3つの失敗の型(破滅型・忖度型・狼狽型)として詳しく読みたい方は、コロナショックの3つの失敗を並べた記事 へ。

なお、これらは制度や相場の一般的な整理であって、個別判断になります。あなたの状況によって、適切な結論は変わる可能性があります。


サウナで言えば、水風呂の局面

コロナショックは、サウナで言えば 水風呂に飛び込む局面でした。冷たさが一瞬で全身を走る。息が止まりそうになる。2020年3月は、まさにそういう冷たさでした。

水風呂で大事なのは、慌てて飛び出さないことです。冷たいのは事実ですが、そのあとに外気浴の「ととのう」が待っている。相場も、冷えた局面で反射的に動くより、静かな時に決めた線で動くほうがいい、と私は考えています。

ととのうは到達点ではなく、往復の状態です。暴落は、その往復の「冷水」の側にすぎません。次の暴落がいつ来るかは、私にも、誰にもわかりません。だからこそ、静かな今のうちに、止めない仕組みだけ整えておく。コロナショックを並べ直して、私がいちばん大事だと考えるのは、その地味な準備です。

—— 渋川 整


参考(一次情報・公式ソース)

本記事は情報提供であって、特定の金融商品の購入・契約を勧めるものではありません。数値は FRED の終値と中央銀行の公表資料によるもので、過去の出来事の整理です。将来の相場を予測・保証するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。2026年10月時点の整理です。