一番速く戻った暴落で、何が起きたか

2020年のコロナショックは、速く落ちて、速く戻った暴落でした。
米国のS&P500はおよそ1ヶ月で34%下がり、底の3月23日から5ヶ月ほど(8月18日)で元の高値を上回りました(FRED)。

それだけ速く戻った暴落でも、下がっている最中には、どこが底で、いつ戻るのかは分かりませんでした。

この記事で書くのは、ひとつだけです。

暴落で損をするのは「下がったから」ではなく、下がった時に動いてしまうから。

暴落の時に起きうる失敗を、このサイトでは3つの型に分けて考えています。


34%下がる、を具体的にすると

「米国株が34%下落」と言われても、ピンと来ないかもしれません。 体感に直すと、こうです。

100万円が、1ヶ月で 66万円に見える 状態。

ここで大事なのは「見える」という言葉です。 実際に売らなければ、それは 減ったのではなく、安くなっているだけ です。 持っている株の数は1株も減っていません。値札が下がっただけ。

でも、画面の数字が赤く点滅していると、人は「34万円を失った」と感じます。 この 「感じ」と「事実」のズレ が、これから書く3つの失敗の入り口です。


2020年2〜3月、市場で起きていたこと

リーマンの時(積立は何ヶ月で戻ったか)と比べて、違ったのは 速さ です。 リーマンは数ヶ月かけてジリジリ落ちた。コロナは 1ヶ月で一気に 落ちた。 米国のS&P500は、2020年2月19日の高値から3月23日の安値まで、約1か月で33.9%下がりました(FRED)。速すぎて、考える時間がほとんどありません。

考える時間がない時に、反射で動くと、このサイトでは次の3つの型に分かれると考えています。


暴落時の3つの失敗パターン

このサイトのマーケット日誌でも繰り返し触れている、3つの型です。誰かを数えた結果ではなく、暴落の時に起きうる動き方を、このサイトで3つに分けたものです。

1. 破滅型 ──「絶好の押し目だ」と生活費まで入れる

「こんなに安いのは今だけ。生活防衛資金まで突っ込もう」

これが破滅型です。 安くなったのは事実 なので、理屈は半分合っています。 問題は「さらに下がる余地があるか、誰にもわからない」こと。

底だと思って生活費まで入れた後に、さらに下がると、生活費まで含み損 になり、身動きが取れなくなります。2020年も、下げは2月下旬から3月下旬まで続き、どこが底かはその時には分かりませんでした。

→ 教訓:生活に必要なお金は、投資に回さない。これは暴落とは無関係に、最初に引く線です。

生活必需品とコインを安全なかごに分け、余剰のコインだけを投資の壺へ移すイラスト
教訓 ── 生活に必要なお金は、安全な側に。投資へ回すのは、余剰だけ。

2. 忖度型 ──「どうすればいいですか」と判断を人に預ける

「最高値からこんなに下がって…担当の方、どうすればいいですか」

これが忖度型です。 怖くなって、判断そのものを誰かに委ねて しまう。

気持ちはわかります。 ただ、正直に書くと 「3ヶ月後どうなるか」を当時誰も本当には知りませんでした。 知らない人に判断を預けても、安心は買えても、正解は買えません。

→ 教訓:「わからない」と言える専門家のほうが、むしろ誠実。 そして最終的に決めるのは、いつも自分です(このサイトも、銘柄やタイミングの指示はしません)。

分かれ道の道標で地図を見て、自分で進む方向を選ぶ人のイラスト
教訓 ── 人に聞いてもいい。でも、最後の一歩は自分で決める。

3. 狼狽型 ──底で投げる/積立を止める

このサイトが一番気をつけたいのが、これです。

  • 怖くなって、底値で売ってしまう(狼狽売り)
  • 毎月の自動積立を、暴落の月に止めてしまう

「ドルコスト平均法」という言葉があります。 むずかしく聞こえますが、中身は 「毎月おなじ金額で、淡々と買い続ける方法」 です。 高い月は少しだけ、安い月はたくさん買えるので、買う時期を選ばずに済みます(一度にまとめて買うより必ず有利、というわけではありません)。

その仕組みが一番効くのは、実は 暴落の月 です。 一番安く、たくさん買えるから。 その月に積立を止めると、一番安く買える月を、自分から飛ばすことになります。

→ このサイトの考え:すでに動いている積立は、暴落の時に慌てて止めない。止めるなら、静かな時に決めた理由で止める。

ゆるやかな谷をならして歩き続け、先に朝日が見える道のイラスト
教訓 ── 下がった月こそ、淡々と。動いている積立は、止めない。

では「正解」は何だったのか(後から見れば、です)

2020年のコロナショックを、数字で振り返ります。 まずは「落ちて戻る形」で見てみてください。

暴落 1年 2年 3年 4年 暴落前の水準(0%) リーマン 2008(−53.7% / 高値に戻るまで 約3年2か月) コロナ 2020(−28.0% / 高値に戻るまで 約3か月半)
図1 コロナ(金色)は、リーマン(朱色)より浅く、はるかに速く戻った。谷が小さく左に寄るほど『浅くて・速い』暴落です。

FRED のナスダック100(NASDAQ100)の日々の終値から作成。月数は高値の日から、その高値を終値で上回った日まで

数字でも並べておきます。

暴落・指数下落率高値に戻るまで(高値の日から)
リーマン・ナスダック100−53.7%約3年2か月
リーマン・日経平均−61.4%約7年7か月
コロナ・ナスダック100−28.0%約3か月半
コロナ・S&P500−33.9%約6か月
コロナ・日経平均−31.3%約9か月半

どれもFREDの日々の終値から数えた値です(日付はリーマン・コロナ・2022年、3つのショックの下落率に並べています)。S&P500は、底の3月23日から約5か月で高値に戻りました。

速く戻った、と書くと簡単ですが、底の時点では、いつ戻るのかは誰にも分かりませんでした。

だから「戻るんだから買えばいい」というのは、結果論 です。 結果論を、さも当時わかっていたかのように語るのは、このサイトではしません。

後から言えるのは、ただひとつ。

自動積立を止めなかっただけの場合が、少しだけ有利だった。

2019年1月から毎月の終わりに同じ額を積み立てて、2020年12月末に評価すると、S&P500では入れたお金の1.230倍、2020年3〜5月の3か月だけ止めた場合は1.217倍でした。日経平均でも、続けた場合1.241倍、止めた場合1.225倍です(FREDの月末の終値で計算。配当・手数料・為替は含みません)。差は大きくありません。差の大半は、飛ばした3か月のうち一番安かった3月末(S&P500 2,584.59)の分です。安い月を飛ばしたので、止めた方が下になりました。評価した日(2020年12月末)が値段の戻った後だったので、その安さが差として出ています。もし下げがもっと長く続いていたら、続けた方が、入れたお金も含み損の額も大きくなっていました。「続ければ必ず有利」ではなく、「この時は、戻ったので続けた方が少し上だった」ということです。


2026年5月時点で、振り返って思うこと

リーマンとコロナ、2つの暴落を並べてわかるのは、 暴落のかたちは毎回違うのに、人の慌て方は毎回同じ だということです。

だからこそ、暴落が来る前に、静かな時に決めておくことがあります。

  • 生活に必要なお金は、投資に回さない(破滅型を防ぐ)
  • 最後に決めるのは自分。「わからない」と言える人を信じる(忖度型を防ぐ)
  • 動いている積立は、暴落の時に慌てて止めない(狼狽型を防ぐ)

派手な必勝法ではありません。 3つの型の、ちょうど裏返しです。

暴落は、いつかまた来るかもしれません。その時のために、この3つだけ、頭の隅に置いておくのがいいと私は考えています。 急いで何かを始める必要はありません。整えるのは、静かな今のうちに。

一次情報(公式ソース)

本記事は情報提供であって、特定の金融商品の購入をすすめるものではありません。積立の計算は月末の終値だけを使った単純な計算で、配当・手数料・税・為替は含みません。

—— 渋川 整


参考資料

※ 本セクションには Amazon アフィリエイトリンクが含まれます。 運営者が実際に手に取って読んだ書籍に限り、本文の主役ではなく 参考資料の置き場として掲載しています。本サイトの編集方針は /about/ の「収益について」を参照してください。 急いで購入する必要はありません。図書館や試し読みでも十分です。

敗者のゲーム[原著第8版] の表紙 敗者のゲーム[原著第8版] / チャールズ・エリス 暴落時に動かないことが、なぜ長期では有利になりやすいのかを、データで淡々と説明する古典。 Amazon で見る ▸ ウォール街のランダム・ウォーカー〈原著第13版〉 の表紙 ウォール街のランダム・ウォーカー〈原著第13版〉 / バートン・マルキール 積立を続ける投資の考え方を、50年以上版を重ねて説明し続けている名著。 Amazon で見る ▸