先に、結論
暴落で含み損が出たとき、「何もしない」は一番難しいことのひとつです。
売りたくなるのは自然な反応です。だからこそ、意志ではなく仕組みで支えます。
ただ、持ち続ければ必ず報われる、とは言えません。過去には、戻るまで30年以上かかった指数もあります。だから「何もしない」は、暴落の後に選ぶものではなく、暴落の前に「自分は何年待てるか」を確かめたうえで選ぶものだ、と私は考えています。
なぜ、売りたくなるのか
画面の数字が赤くなると、人は反射的に売りたくなります。理由は3つあります。
ひとつ、損を確定したくない。下がった分を「失った」と感じ、それ以上減るのが怖くて、逆に売ってしまう。これは損失回避と呼ばれる、人の自然な傾向です。
ふたつ、見るほど不安になる。明細を開くたびに含み損が増えていれば、冷静ではいられません。
みっつ、周りに流される。「みんな逃げている」という空気は、判断を上書きします。
どれも意志の弱さではありません。普通の反応です。だから、意志で抑えようとしないほうがいい。
「何もしない」を支える4つの仕組み
慌てないための仕掛けを、暴落が来る前に置いておきます。静かな今のうちに整える話です。
①は、暴落の当日に判断しないための仕掛けです。慌てている時の決定は、後から見直しにくい、と私は考えています。静かな時に「積立は止めない」と決めておけば、当日は何もしなくていい。
②は、不安の入り口を細くする工夫です。毎日見れば毎日動きたくなる。頻度を下げるだけで、反射の回数が減ります。
③は、土台です。生活に必要なお金が別にあれば、暴落の最中に資産を売って現金を作る必要がありません。売らずに済む状態を、先に作っておく(生活防衛資金の話)。
④は、記憶の支えです。過去の暴落がどう戻ったか、戻らなかったかを数字で知っておくと、足元の赤い数字だけで判断しにくくなります。
過去の暴落を、数字で見る
2020年のコロナショックでは、S&P500 が2月19日の高値から33日で33.9%下がり、約6か月後の8月18日にその高値を上回りました(FRED の終値・コロナの時系列)。
リーマンの時に、高値の月から毎月同じ額を積み立て続けた場合は、指数が高値に戻る前に、入れたお金を上回りました。日経平均で2012年12月(66回目)、ナスダック100で2009年7月(22回目)です。下がっている間も安く買い続けたので、平均の買値が下がったためです(積立は何か月で戻ったか)。それでも日経平均では5年以上かかっています。
もっと長い例もあります。日経平均は1989年12月29日の終値38,915.87円を、2024年2月22日まで上回りませんでした。約34年です。
3つのショックを横断して見たい方は、こちらの記事もどうぞ。
ここで言い切れるのは「必ず戻る」ではありません。将来は誰にもわかりません。数か月で戻った下げも、30年以上かかった下げもあります。だから、何年待てるか(その間に、そのお金を使う予定が無いか)を、静かな時に確かめておくことが、「何もしない」を選べる前提になります。
サウナで言えば、水風呂に飛び込む局面です。冷たいのは苦しい。でも、すぐに出てしまうと整いません。
「何もしない」は、立派な技術
何もしないのは、怠けることではありません。
売りたくなる反射に逆らって、口座を閉じ、決めたルールを守り、淡々と持ち続ける。それは、はっきりとした技術です。
そしてこの技術は、暴落の最中には身につきません。静かな今のうちに、仕組みとして仕込んでおくものです。
急いで何かを始める必要はありません。整えるのは、今のうちに。
—— 渋川 整
本記事は情報提供であり、特定の金融商品の購入・契約を勧めるものではありません。過去の事例は将来の結果を保証するものではありません。株価の数字は米セントルイス連銀 FRED の日次の終値(S&P500・NIKKEI225・NASDAQ100、2026年10月25日に取得)です。投資判断はご自身の責任で。2026年10月時点の整理です。